代表コラム president column

第51回 「会話から生まれる新たなまちのデザイン」

 3月12日、「第3回水戸まちなかデザインシンポジウム」が開催され、その中で協議会専門委員の小野寺康氏(小野寺康都市設計事務所)から、「会話から生まれる新たなまちのデザイン」と題するご講演をいただいた。ご本人が携わられたプロジェクトを通して、会話からどのようにしてアイデアが生まれ、まちがデザインされてきたのか。今後の協議会活動にとって、大いに示唆に富む講演だった。

 

事例① 宮城県女川町

 震災復興中の女川町では、専門家や町長、部長などによるデザイン会議で、町の構想を質・スピードを落とさずに議論し、意思決定された。

 歩行者専用道路「レンガみち」の沿道には、商業施設や地域交流センターなどが並び、周りには町営駐車場をサテライト的に配置。「レンガみち」を主軸に周りの自立再建の商店街にまでにぎわいを派生させる構造になっている。沿道建物もレンガ素材を使い、商業施設側の中庭が「レンガみち」に滲み出るデザインを施すなど、官民境界を感じさせない一体感のある空間に仕上げた。地元のアイデアで、「レンガみち」は元旦の日の出方向に向くように作られた。

 「女川町海岸広場」は、地元の方々とのワークショップでデザインされた。児童公園の位置は、子を持つ親の希望で変更され、震災遺構は、主婦のコンセプトをもとにデザインされた。スケートボードパークには、地元のアイデアでアンカーが設置された。空間の活用方法は、商工会や商店街の若手リーダーたちと模型を見ながら議論、二転三転しながらデザインを組み立てた。

 

事例② 兵庫県神戸市三宮

 神戸市は、三宮エリアを街路、広場、沿道建物が一体となったウォーカブルな空間とすることとし、駅ビルや高架下のリニューアルに合わせて整備が行われた。「サンキタ通り」は、高架側の歩道が狭く、通過車両と路上駐車がひしめき、夜は客待ちタクシーが並ぶ状況だったが、タクシーの客待ちスペースを移動、高架側の歩道を拡幅、一般車を通行止め、歩車道境界の段差解消などにより、ウォーカブルな空間に再編した。

 道路の空間活用については、関係者と話し合い「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」を利用し、民間敷地と街路スペースを組み合わることで、オープンカフェを実現、沿道店舗と街路の一体的なにぎわいを生み出した。また、街路の占用は、地元企業と市で組織される任意団体が主体となって、利用上のルールを明示することで、トラブルなく活用されている。

 

 デザインの検討段階から地元の方々と会話し、一緒になって作っていく。まちができ上がる頃には地元の方が既に自分たちのものであると思ってくれる。このプロセスが、これからのデザインの主流になる。小野寺氏はこのように講演を締めくくった。

 

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