代表コラム president column

第56回 「まちやど」について考える

 まだまだ暑さの収まらない9月中旬、長野県信濃町の斑尾にて遅めの夏休みを楽しんだ。とは言え、直前に申し込んだので宿泊先がどんなところかも分からず、とにかくカーナビに従って北関道から関越、上越道を乗り継ぎ、片道340キロを4時間半もかけ、もうちょっとで新潟県のところまではさすがに疲れた。

 行き先はリゾートホテルだった。レストランはもちろん温泉大浴場・露天風呂、室内プール、エステサロン、カラオケ、それからお土産やアウトドア用品など何でも売っている売店、屋外には子どもも大人もしっかり遊べるアスレチック、テニス、ボルダリング、パターゴルフ、キッズパーク。リフトに乗れば山頂から野尻湖や北信五岳の素晴らしい景色も。運転疲れの私にとっては至れり尽くせり。でもちょっと待った。これだけなら遠路はるばるここまで来なくても、近場の那須のリゾートでも良かったのではないか。いやいや、茨城県の県北にもこれくらいの場所はあるぞ…。

 とても昭和的な夏休みのフルバージョンをそれなりに楽しみつつ、まったく違うタイプの宿泊体験を思い浮かべた。それは、「まちやど」。

 すべての施設がその中に揃っていて、一歩も外に出る必要のないホテルとは対照的に、「まちやど」はまちを一つの宿と見立て、宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値を向上させる事業だ。まちの中にある日常を最大のコンテンツとすることで、利用者には世界に二つとない地域固有の宿泊体験を提供し、まちの住人や事業者には新たな活躍の場や、事業機会を提供する。

 これこそが実は、近代以前の日本本来のツーリズムの形であろう。かつての宿場町は、泊まる場所、食べる場所、お風呂に入る場所など、さまざまな要素が集まって構成され、街道沿いに連続していた。

 水戸の人が日常的に満喫している水戸のまちがあって、それを旅人たちにも楽しんでもらう。そのことが、水戸のまちの、エリアとしての価値を高め、街も人も元気になる仕組みの一つになり、また来街者にとっても、水戸のまちの人とのコミュニケーションが、自分の道を見つける旅にもつながるのでは。魅力的な資源の固まりである水戸のまちなかなら可能だ。

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