代表コラム president column

第69回 「寛容と幸福の地方論」

 10月10日、石岡にて茨城県商工会議所連合会の議員大会が開催された。お目当ては、LIFULL HOME’S総研の島原万丈所長による講演「地方創生の希望格差〜人口減少でも未来に希望を持つまち、あきらめるまち」。LIFULL HOME’S総研は、2014年からほぼ毎年、独自の調査研究レポートを発行し、ユーザー目線での「住」領域の調査研究と提言活動を行っている。私が初めて島原所長にお会いしたのは、2015年の調査レポート「センシャスシティ(官能都市)」についての講演会だ。都市の魅力とは、楽しく幸福に暮らせる都市とはどのような場所か。都市の本当の魅力を測るための、アクティビティに焦点を当てた提案で、かなり衝撃的だった。その島原所長が石岡に来た。

 今回の講演は、2021年から2023年にかけて調査研究された地方創生シリーズ「寛容と幸福の地方論」の総まとめ。地方創生の目指すべきは「地域の幸福度」の向上。地域の人口は、選ばれたか、選ばれなかったか、の結果である。幸福感は人それぞれ多様であるので、その多様性に対して「寛容であること」が、選ばれる(人口が増える)ための条件である。

 地方から東京に出たままの若者と、地方に留まる若者、それぞれに対し、女性の生き方、家族のあり方、若者への信頼、少数派の包摂、個人主義、変化に対する受容、この6つについて、住んでいる都道府県の県民性や社会の雰囲気を尋ねる。ポイントは、封建的であるか、寛容であるか。

 この意識調査の結果から都道府県別の寛容性をみてみると、6つの指標ごとにデコボコしていない。1つの傾向があれば他も共通している。これはつまり、県民性と言えよう。この寛容性
指標と社会増減(人口の流入流出)率は相関が高い。不寛容な地域では、移住者は定着しないのだ。

 また、「地域の希望」についても調査・測定している。その結果、地域の未来に対して明るい希望を持っていると、個人の幸福度が高い、定住意向が高い、挑戦意向が高い、地域へのコミットメントが高い。地域における格差や人口減少に対する認識は、地域の希望に対し負の効果があり、一方で世代交代や多様性が先導する新しい価値観は、地域の希望の兆しとなる。つまり、新しい時代の価値観を体現化する若者(挑戦)と応援する老人(寛容)の組み合わせだ。政治行政への信頼度も、地域の希望に大きな影響を与える。

 人口減少でも未来に希望を作る地方創生とは、①人口減少の心理的インパクトを緩和する ②街に好ましい変化を起こす ③ひとの変化を可視化する ④政治行政のPR体制の強化、が大切。寛容性が人や街の変化を生み、地域の希望につながる。寛容性が変化や挑戦を生み、そして未来への希望を生む。

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